創始者である師家・楊名時は、中国山西省の武門に生まれ様々な伝統武術を身につけ、
1943年官費留学生として来日し京都大学に学びました。
その後、自身の修めた伝統太極拳をもとに、
中国で制定された健康を目的とした「簡化二十四式太極拳」
および中国古来の「八段錦」に独自の工夫を加えて1960年に完成させたものが、
「楊名時八段錦・太極拳」です。
人類の知恵である孔子の儒教、老子の道教、釈迦の仏教を根底の哲学とし、中国古代から伝わる気功法と武術を源とする簡化太極拳に、自身の考えを取り入れた健康法・養生法です。互いに競い合うのではなく、共に相和して互いの幸福・健康を願い、精進しあう和の健康法です。
立禅、甩手(スワイショウ)、八段錦、二十四式太極拳を主とし、心静かに、呼吸はゆったりと、動きはしなやかに、「心・息・動」を一体として「同心協力」で楽しむ養生法であり、「動く禅」とも言われています。
私たちは、活動しているときや緊張しているときに働く「交感神経」とリラックスしているときに働く「副交感神経」を
交互に働かせ、体の機能をコントロールしています
ストレスが多く、情報過多の日常生活では、どうしても交感神経が優位になって、興奮しがちになりますが、
この2つの自律神経は、自分の意思とは関係なく働いているので、バランスが崩れると回復が非常に難しくなります。
この自律神経に、自分の意思で働きかけることができる方法が「呼吸法」です。
吸う息が交感神経と関係し、吐く息が副交感神経と関係しているので、
吸う息よりも吐く息を長く行うことで、副交感神経が優位に働き、体をリラックスへと導きます。
お稽古の最初と最後に行います。足を肩幅に開いてたち、目を閉じるか、半眼にして、鼻で深い呼吸を行い、心の静けさをめざします。
太極拳を始めるときの準備運動、また終わったときの整理運動として立禅のあとに行います。手を左右に大きく振る運動で、力を抜いてポイと投げるように振ります。全身に気血をめぐらし、体全体をリラックスさせます。
八つの動きで構成されています。やさしい動きで、ゆっくりとした呼吸を促します。1つ1つの動きには、胃腸を整えて丈夫にする(第一段錦)、心臓や肺の機能を高める(第二段錦)、脾や胃の働きを整える(第三段錦)、血の巡りをよくして疲れを改善する(第四段錦)、心を鎮める(第五段錦)、腎臓を刺激して内臓の働きを活発にする(第六段錦)、血圧を整える(第七段錦)、背骨を刺激して百の病を消す(第八段錦)、などの働きが古来、伝えられています。
伝統的な太極拳を簡略化した24の型を続けて舞います。約12分間、ゆっくりと動いて雑念を払います。両手両足が別々の動きをするので初心者には難しく感じられるかもしれませんが、できるようになると、とても気持ちよいものです。やればやるほど、奥が深く、長年続けている方が大勢いらっしゃいます。
生活習慣病予防
生活習慣予防には、食生活の改善と運動習慣が大切ですが、運動習慣ではウォーキングなどの有酸素運動が勧められています。特に中強度の運動が効果的だとされ、運動強度を表す単位メッツで表すと3〜4メッツの運動を毎日20分程度行うことがよいとされています。太極拳の運動強度はちょうど3〜4メッツ。生活習慣の予防にお勧めです。
(メッツとは…安静時の強度を1メッツとしたときの強度)
認知症予防
認知症予防には、「デュアルタスク」といって、異なる事柄を同時に行うことで、認知機能を強化できると言われています。例えば、同時に複数の料理をつくる場合の「食材を切り、煮る・焼くなどの火加減をし、洗い物もしながら、仕上げていく」という行動など。太極拳は、両手両足を別々に動かしますので、認知機能の強化に役立ちます。
転倒予防
太極拳は、重心を移動させてから次の動きを行います。常に、足裏を使って重心を支えることで体の軸をしっかりさせ、バランスのよい足運びを行う習慣がつき、転倒予防につながります。